誰もいない森の中で倒れた木からは音がするのか?

photo by Manabu KANAI

 cosmopolitan#2 - 誰もいない森の中で倒れた木からは音がするのか?

2021年8月07日- 08月22日

人生のうちに「他者」の存在を認めてのち、はじめて「自分自身」が確立してゆくように、そして世界の「異なる文化」に目を向けることによって、あらためて「自身の文化背景」に思いが巡ってゆくように、グローバルと呼ばれるわたしたちの今日が真にグローバルな意識を確立するためには、「グローブ」を相対的に、別のグローブから眺めるような視点が必要かもしれません。

『If a tree falls in a forest and no one is around, does it make a sound?(誰もいない森の中で倒れた木からは音がするのか?)』というのは、観察と知覚に関する問題を提起する哲学的思考実験で、アイルランドの哲学者、聖職者ジョージ・バークリー(George Berkeley / 1685 - 1753)が立た問いであると言われています。「あなた」がいなくても「わたし」は成立するのか?「人間(知覚の主体)なき」世界にも、はたして「アート」は存在するのか?

グローバル化した人間の活動が南極の氷を溶かし熱帯のジャングルを焼き、ますます熱を発する放射性物質の傍らで新しい地層の定義が議論される一方、人工知能がセンサー内蔵道路を走行し、やがて特異点に差し掛かる集積情報からはじき出された「合理的な選択」が、人類の足元を照らし始めているような今日、わたしたちは、かつてないこの「グローブ」の現状に、どのように向かい合ってゆくべきなのでしょうか。

展覧会『コスモポリタン』は、「地球市民」としての思考を促すために企画されたシリーズの展覧会です。第二回となる今回は『誰もいない森の中で倒れた木からは音がするのか?』と題し、東京都荒川区西日暮里のギャラリー「HIGURE 17-15 cas」にて、金井学、梶原瑞生、高橋沙絵、石井潤一郎の作品をご紹介いたします。

会場 : HIGURE 17-15.cas
東京都荒川区西日暮里3丁目17-15

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石井潤一郎

背景情報を違えることによって、シニフィアン(意味すること)とシニフィエ(意味されること)は一時的に破壊される。石井はこの分解されたシーニュ(記号)を、再構築するように作品制作を行っている。 作品の方法・素材に関して特定のスタイルは持たないが、いずれの場合も場所から得たインスピレーションを、もっとも率直な形で視覚化する。これらの作品は、「日常」の非日常的な解釈か、或いはもっとシンプルな、文化のスケッチのようなものに似ている。

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金井学

芸術を実践する行為そのものを、それぞれに(複数的な)スペシフィシティを持つ事物を構成することによって、人工補綴(身体や記憶の外在化)としてのある種の言語(形式)を作り出すこととして位置づけつつ、そのような言語の発明の瞬間に生成し得る特異な時間・空間のダイナミズムを探求している。

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梶原瑞生

主に西洋のクラシック音楽を題材にし、正確に組み立てられた楽譜を身体的経験によって破壊・再構成するという試みを通して作品を制作している。記号を新しい情報に置き換えることへの関心から出発し、音楽を通して現代と古典を繋ぐことで、現代アートの新しい可能性を探る。

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高橋沙絵

壁や床のひび割れや汚れなどから美的性質を見つけ、抽象絵画へ昇華する作品を制作。筆を使わず、指や手の掌または絵具チューブから直接キャンバスへ絵具を載せ、身体からのエネルギーを注ぐ。

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