私に海が必要なのは、教えてくれるから
音楽を学ぶのか、意識を学ぶのかわからない
それが一つの波なのか、その広大な存在なのか
あるいは耳障りな声や輝きが
魚や船を示唆しているだけなのか
事実は、眠りにつくまで
何らかの磁場によって連れられ
私は波の大学の中に漂う
それは単に貝殻が砕けただけでなく
あたかも震える惑星が
しだいに死の兆候を示すように
否、私は断片から1日を再構築する
一片の塩から鍾乳石を。
そして偉大な神をひと匙のスプーンから再び。
昔、私が学んだように、それは空気
絶え間ない風、水、砂。
おそらく若者にとっては小さなことのようで
ここに来て自ら灯した火と一緒に暮らすことは。
けれど、その深淵の中で上昇し、下降するパルス(脈動)
蒼く凍てつく響。
絶えゆく星のように
柔らかな波の展開。
雪を泡で覆い隠す波の柔らかな展開。
静かな力がそこにはある
深い底にある石の祠のように。
私の日増しに募る頑固な悲しみと、忘却の収集は取って代わり
その純粋な動きの一部に私がなったとき
突然、私の人生が変わった
《海》 パブロ・ネルーダ 訳:木坂宏次朗
2021年7月16日- 8月01日
この度、キカ・ギャラリーではニューヨーク出身のアーティスト、フォスター・ミックリーをご紹介いたします。アメリカでフォトジャーナリズムとファインアーツの修士号を取得したミックリーは、世界を代表する国際的な写真家グループ、マグナムフォトにて写真を学び、アジアやアメリカ、ヨーロッパにわたり活動を続けてきました。
写真や文章を中心としながら多岐にわたるミックリーの創作活動は、今回のプロジェクト「Wish Exchange」において、関係性を重視したリレーショナルな作品としてひとつの結実をみせます。
はるか彼方の海から打ち寄せられた貝殻を、地球からの「ギフト(贈り物)」として捉えるミックリーは、この「ギフト」を展覧会場を訪れる観客に無償で贈ります。かつて生命を守る宿であった貝殻は、夢想のシンボルであり、また同時に「願い」の比喩でもあります。
展覧会場で皆様を迎える作家は、貝殻を通してあなたと何かを共有するでしょう。それは遠い海に馳せる想いかもしれませんし、ここではないどこかを夢想するゆるやかな時間の流れかもしれません。
本展覧会において、作品は鑑賞者であるあなた方自身となります。展覧会「Wish Exchange」がどのような展覧会に発展してゆくのか、それを形作るのは訪れた鑑賞者ひとりひとりであり、この不確定さそのものが、現代アートに触れるひとつの醍醐味であると言えるでしょう。
キュレーション : Isabelle Olivier / Philippe Bergonzo / 石井潤一郎
協力: ジャマ・ギャラリ / つぼみ堂 / キカ・ギャラリー
1985年生まれのフォスター・ミックリーは、シカゴのメディル・ジャーナリズム学院を卒業後、コロンビア大学でファインアーツを、パリのマグナム・フォトで写真を学びました。これまでの主な展覧会には、NYC Munch Gallery での個展、フランス、アルルの Voies Off、韓国芸術総合学校、NYC Ilon gallery、ベルリン Foto Kiez、東京リマインダーズ・プロジェクト Stronghold、京都 KG+でのグループ展(2020)などがあります。ニューヨーク出身のミックリーは、10年以上にわたり、ニューヨークとベルリン、東京を行き来しながら活動を続けています。2020年から京都を拠点にしているミックリーは、アンチボディズ コレクティブ(Antibodies Collective)のメンバーであり、ジャマギャラリー(Jama Gallery)の共同設立者でもあります。2021年には、ICA 京都、リサーチ・フェロー・プログラムにも参加しています。
写真家、文章家、ビジュアル・アーティストとして、フォスター・ミックリーは写真や文章を中心としながら、長年にわたる日本の写真への関心、文学や詩のサークルへの参加、そして音楽や絵画への愛によって育まれた、複合的な創作活動を展開しています。ニューヨークとベルリンのアートグループのメンバーとして活躍するミックリーの創作プロセスは、共同作業への繊細なアプローチを通して、事前に与えられた情報に左右されない見方、共有された想像力が規範を揺るがし、多様性が支配権を弱めるところに広がる、芸術の可能性を示唆しています。フォスター・ミックリーは、何年にもわたる放浪を通して、彼が出会い関わった世界の中で、そしてその世界のために、親密な視覚言語を展開しています。彼は、暖かさ、感嘆、そして賞賛を示す柔らかくて明るい形を通じて、それらを伝え、関係性の中に育まれる、繊細な詩性を描写しているのです。